経営している会社が金融機関からの借り入れをする場合、ほとんどの代表者は連帯保証人としてサインします。
会社が約束通りに返済できているうちはいいのですが、返済が滞ってしまうと債権者は連帯保証人のところに回収に来て、「あなたは連帯保証人なのだから代わりに払いなさい」ということになります。
一般的に言われていることでもありますが、家族の保証人になるのはともかく、友人や取引先の保証人になる場合はよくよく注意が必要です。
そして相続と連帯保証がからむと、さらに厄介なことになるのです。
■保証人という地位も相続される
親が金融機関から借り入れをしていた場合、その債務を相続人である子供たちが引き継ぐということは知っていても、保証人という立場を引き継ぐということは意外に知られていません。
他人の保証人となって、債務者が返済できなくなった場合に代わりに返済することを「保証債務の履行」といいますが、この保証債務も相続の対象となるということです。
つまり父親が取引先の借金の保証人になっていたら、たとえその事実を知らされていなかったとしても、その保証債務は相続人たる奥さんや子供たち(相続人)が引き継ぐわけです。
そしてその取引先が不幸にして倒産したら、それを後継者でもない奥さんや子供たちが返済することになるのです。こうなると自分の人生、いったい誰にささげているのかわかりませんね。
また、保証債務の存在そのものを相続人が認識していないケースもあり、のちのちトラブルになりやすいのです。
さらに遺産分割協議で相続人が複数いる場合に「相続人Aが保証債務を引き継ぐ」と決めても、第三者である債権者に対しては無効であり、法定相続分に基づいて負担を求められます。
これは損害賠償責任についても同じことが言えます。交通事故の加害者であった親が死亡した場合などは、その子供は相続により損害賠償義務を引き継ぐことになります。
また例えば医師であった親の死亡後に患者さんから医療訴訟を起こされたら、相続人は(後継者たる医師でなくても)受けて立たなければならないのです。
■税務上は「確定していなければ控除できない」
保証債務について、相続税の計算はどうするのでしょうか。
相続税の対象となるのは現預金、株式、不動産などの「積極財産」だけではなく、借入金や未払い金などの「消極財産」も相続税の対象(控除の対象)となるので計算に反映させます。
積極財産には当然課税されますが、消極財産の方は債務控除の対象として遺産総額から差し引けます。
ただ、今回取り上げた保証債務は原則として債務控除の対象にはなりません。
これは保証債務を履行(肩代わり)した場合には、保証人が債務者に対して返済してもらえる権利(求償権といいます)が発生し、のちのち補填される
――という前提であるため、確実な債務とはいえないからです。税務上は「確定していなければ控除できない」のです。
ただし、主たる債務者が弁済できない状態にあり保証人がその債務を肩代わりしなければならない場合で、
かつ求償権を行使しても弁済を受ける見込みのない場合には、その弁済不能部分の金額については、債務控除の対象となります。
簡単に言えばAさんがBさんに「あなたが払うべき債務を私が肩代わりしてC社に払ったんだから、ちゃんと返してよ」と迫ったとしても(求償権の行使)
、Bさんが「済みません、土下座しようが何しようが払うことができません」となった場合には、Aさんの焦げ付き分は遺産総額からは差し引くことができる、ということです。
このように他人の保証人になるというのは想像以上に影響の大きい話です。
また通常、お父さんは他人の保証人になる際には家族に反対されるのを恐れて、内緒で印鑑を押すケースが多いと思われます。
ですから今のうちに必ず聞いておきましょう、「お父さん、誰かの保証人になっていないでしょうね?」と。
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